法廷通訳になるには


               


           1)法廷通訳は裁判所専属なの?

            専属ではありません。事件ごとに「選任」されてこの仕事をする形になっています。
            そんなわけで、普段は他の分野での通訳をしている人や、
            翻訳家、学校の先生、レストランのオーナー、鍼灸師など、
            いろいろな「職業」の人がこの仕事に携わっています。


          2)どうしたらなれるの?

            以前は「××語が足りない」「○○語の通訳が必要」という感じで、
            すでに法廷通訳の仕事をしている人が別の人を紹介する形をとっていました。
            今は公募をしていますので、まずは最寄りの地方裁判所か、
            最高裁判所事務総局刑事局第二課(03−3264−8111 内線4223)
            に問い合わせてみてください。


          3)セミナーなどはあるの?

            裁判所では、法廷通訳の仕事を希望する人や、やってみたいけれど詳しい内容が
            わからなくて迷っている人などを対象に、平成7年(1995年)から
            「法廷通訳セミナー」を開催しています。2日間のセミナーでは、
            刑事裁判の手続きや法廷通訳についての講義を受けたり、
            実際の法廷を傍聴したり、通訳実習(模擬法廷)を行なったりしています。

            このセミナーは言語別に行なわれます。会場は東京や大阪などの大都市の裁判所です。

            裁判官や「先輩」通訳の話が直接聞ける上、本物の法廷で実習ができるので、
            大変好評ですが、例えば東京でスペイン語の法廷通訳をしたい人がいても、
            次に受講のチャンスが巡ってくるのがいつになるかわからない、
            という不便さはあります。そういうこともあって、今のところ、
            セミナーを受けなくても法廷通訳の仕事は一応させてもらえることが多いのですが、
            チャンスがあったらぜひ受講した方がよいでしょう。


          4)セミナーは何度も受けられるの?

            残念ながら、このセミナーは「入門」セミナーなので、
            2度3度受けることはできません。内容もあまり変わらない上、
            裁判所としては1人でも沢山の人に受けてもらいたいからです。
            ただ、2000年から、これとは別の「中級者向け」セミナーも
            始まっています。こちらは模擬裁判などはなく、倫理面での研修などが
            中心です(言語別ではありません)。
            (詳しくは裁判所へお問い合わせください。)


           5)セミナーを受けると自動的に法廷通訳になれるの?

            セミナー受講後、法廷通訳の候補者リストに名前を載せてほしいかどうか聞かれます。
            希望する場合は申込用紙に必要事項を記入して提出してください。
            ただし、すぐに仕事の依頼がくるとは限りませんので、その点はご了承ください。


          6)セミナーさえ受ければ、怖いものなし?

            残念ながら、2日間のセミナーですべてをお教えすることはできません。
            最低限必要な基礎知識や心構えなどを身につけるだけなので、
            あとは、個人で努力するしかありません。


           7)個人で努力って...何をすればいいの?

            まずは、実際の法廷を何度も傍聴してください。お金もかかりませんし(笑)。
            裁判の流れや出てくる用語、特殊な言い回しなどがだんだんわかるようになってきます。
            できれば外国人事件がいいのですが、なければ日本人の事件でもかまいません。
            大半の裁判は誰でも傍聴できるシステムになっています。
            また、日本の法律や法律用語も少しずつ勉強していきましょう。
            別項目に参考書のリストを書いておきましたので、ご活用ください。
            さらに、日本語の勉強も(母語が日本語でない方はもちろんのこと、日本人でも)
            必要です。訳すときのちょっとしたニュアンスの違いで、
            有罪か無罪かが決まってしまうこともあるのですから。


          8)漢字が読めないと法廷通訳はできないの?

            普通、通訳は耳で言葉を聞いて、それを他の言語にうつしかえて口で
            言うわけですから、文字が読めなくてもできる仕事と思われがちです。
            確かに、それでも大丈夫な分野も多いのですが、法廷通訳の場合は、
            事前に起訴状や冒頭陳述書、論告要旨、弁論要旨といった書面が送られてきて、
            それを読んで通訳しますから、文字が読めないと困ります。
            「事前にもらえるのなら家族に読んでもらって訳しておけばいい」と言う人もいますが、
            裁判の内容はたとえ家族でも漏らさないのが原則。やはり自分で読めるようにならないと
            まずいです。それに、判決文は当日にならないともらえないので、
            こればかりは家族に読んでもらうわけにはいかないですね。どうしても文字が読めない、
            あるいは漢字がとても苦手、という通訳人の場合は、法廷で書面を読み上げるとき
            少しずつ区切って読んでもらい、耳でそれを聞いて訳すという手もあります。
            ただ、漢字をまったく知らないと、難しい法律用語を覚えるのも大変だし、
            法律家しか使わないような古い言い回しなどは、意味を想像することもできない
            ということになります。本気で法廷通訳を目指すのなら、
            漢字の勉強もぜひちゃんとしてください。


          9)日本人の方が法廷通訳人にはなりやすいの?

            裁判官や書記官によっては、確かに日本人のほうを好む人もいます。
            何となくただの差別のときもあるような気もしますが、たいていは
            「だって外国人だと話してる日本語がよくわからないんだもの」というのが理由です。
            外国人同士や外国語にいつも触れている日本人の耳にはちゃんと日本語を
            しゃべっているように聞こえても、慣れない裁判官や書記官には「××語なまり」
            の日本語は聞き取りづらいのでしょうね。
            これを読んでいるあなたが外国の方(母語が日本語でない、という意味です)で、
            このようなご不満を感じているのでしたら、次の法廷からは今までよりも
            「ゆっくりはっきり」しゃべるようにしてみてください。
            また、裁判所の人たちと仲良くなって、裁判のこととか、自分の通訳の改善点などを
            いろいろ聞いて教えてもらうのもいいですね。


          10)通訳するときメモをとっているようだけど、あれは速記?

            速記ではありません。検察官・弁護人・裁判官からの質問や、
            それに対する被告人や証人の答えを全部正確に覚えておくための「お助けメモ」です。
            裁判では、被告人が言ったことを省略したり、勝手にまとめて通訳することは
            禁じられています。そのため、正確にすべてを記憶する必要があります。
            ところが、商談通訳や会議通訳などと違い、何が出てくるかまったくわからないのが
            法廷通訳というものです。例えば「今日は天気がいいから」と言ったら、
            普通はその後に「散歩に行きたい」とか「洗濯をしよう」とか、
            常識で推測できる文章が続くわけですが、裁判で通訳をしていると、
            この後に「家で昼寝をするんだ」とか「夕飯はカレーにしよう」とか、
            とんでもない文章が出てきてびっくり!ということがよくあるのです。
            その上、尋ねたことと違うことを答える被告人がいたり
            (これもそのままその『変な答え』を訳さなくてはいけない)、
            昼ごろ新宿駅に行ったかどうか聞いているだけなのに、
            その日の朝起きたときのことから全部ずらずら言う人、
            話がぐるぐる回って同じことを繰り返す人など、いろいろな人がいるわけです。
            そこで、長くいろいろと話す人がいても、それを正確に記憶して通訳できるよう、
            メモをとっているわけです。メモ用紙は通訳人が自分で用意するのが当然ですが
            (それは他の通訳でも同じですよね)、紙を忘れたり足りなくなったりしたときは、
            裁判所の人にお願いして紙をもらってください。
            そのまま「仕方ない、メモなしでやるか」と頑張っていると、
            結局覚えきれなくて困ることになりかねません。
            メモのとり方は各自で工夫していますが、通訳学校などでもコツを教えています。


          11)TVドラマでお勉強!

            ドラマの裁判のシーンなどが出てきたら、見ながら訳してみましょう。
            実際の法律用語とは少し違うときもありますが、雰囲気に慣れるというメリットもあり、
            結構いい方法ではないかと思います。

            裁判以外のシーンでも、日常的ないろいろな会話が聞けるわけですから、
            それを訳すことは大変いい勉強になります。
            細かいニュアンスまで気をつけながら訳していきましょう。


          12)法廷通訳者ネットワークの自主勉強会について

             東京では、年に4回、都心で会場を借り、弁護士の先生を講師にお招きして、
            法廷通訳勉強会を自主的に開いております。講義はすべて日本語で行なわれ、
            日本の法律や法律用語について学んでいけるようになっています。
            詳しくは『法廷通訳勉強会』の方をご覧ください。
            (現在、新規会員の受け入れはストップしております。)



各地の裁判所の所在地と電話番号はこちら

http://www.courts.go.jp/map_tel/index.html




(作成:2000年2月13日、一部変更:2003年8月6日、

2009年10月14日、2010年8月13日、2016年8月14日)


                                      (以上、文責 中西智恵美)




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